大貫さんが結婚式を挙げなかった理由とは?
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「一生仕事をしたい!」という思いが俯瞰(ふかん)の視点を育てた
「結婚式」というと、「女性の幸せ」「人生のゴール」という明るいイメージがありますが、私は昔からそういったイメージを持っていないタイプでした。
子どもの頃から何となく「一生仕事をしていく」という思いがあったため、「結婚式がラストシーン」というめでたしめでたしな少女漫画のようなものではなく、結婚後も仕事や家族間のいざこざなど様々なトラブルが巻き起こるギャグ漫画のようなものとして、自分の人生を捉えていたからかもしれません。
ウェディングドレスを着こなす自信がない…
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私の周りの友人たちは、私とは逆に結婚式をするのが夢というタイプの子が殆どでした。
こんな結婚式をしてみたい、ドレスを着てみたい、お色直しは〇回と、式の内容まで決めている子もいました。
きらびやかなウェディングドレスは、確かに憧れはありますが、自分だけで着て楽しむだけでなく、大勢の人にその姿を見られるというのがちょっと恥ずかしいという気持ちもありました。
二の腕が太く、二重顎、下っ腹の丸み等々、今すぐにドレスを着られる状態ではないことに加え、友人たちも式に向けてダイエットやエステに通っている様子を聞いていたため、自分にその努力が全うできる自信もありませんでした。
「ありえない…」結婚式のリアルな費用に衝撃を受ける
そして、20代中盤を過ぎた頃から実際に結婚する友人が増えていき、式を挙げた友人に聞いてびっくりしたのが、その予算です。
普通に何百万もかかるということに驚き、節約しようものなら安っぽい式になってしまうとか、そもそも節約しようとすると結婚相手にセコい人だと思われるだとか、いろいろな話を聞きました。
大抵の人は、競馬やボートレース等のギャンブルに何百万も賭け、1日で失ってしまう人に対して「ありえない!」と思うと思いますが、私からすると、結婚式で何百万も使うことと大差ないと思ってしまうのです。
そこに価値が見出せない者にとってはどちらも同じ。豚に真珠、大貫に結婚式です。
こういう事柄をきっかけに、私の心が「式を挙げない」ということで決定してしまったのです。
大貫さんの結婚式への意識。それはいったいどう変わる?
しかし実は、このときの結婚式のイメージと今自分が考える結婚式のイメージは、様々なことを経験し、少し変わってきています。
この連載では、どうして結婚式が嫌だったのか、こんな結婚式ならよかったかもしれない等々、いわゆる元来の「結婚式」の形に苦手意識を持っている方々にも楽しんでいただけるようなものにしていきたいと思っています。
『大貫さん』ってどんなひと?「野球と相撲と漫画が大好きな子どもでした」
── 今回、大貫さんに「結婚式を挙げる」意味を見直してほしい!と考えたきっかけが、某テレビ番組(※)なんです。海外でフォトウェディングを行うために奮闘する大貫さんと旦那様の山西さんをそちらで見ていまして…。
大貫さん:ありがとうございます。
── 今回の連第1話を拝見しましたが、大貫さんは結婚式に対して否定的だったんですね。番組内とはいえ、フォトウェディングを行うまでにも葛藤があったのでは?
大貫さん:当初はマネージャーにも「結婚式はやらないので出ません」と断っており、新婚旅行でハワイに行く予定だと話したところ、そこに同行するだけで良いので…という形で始まった企画でした。
ところが蓋を開けてみれば、ガチのドッキリがあり、何故かイースター島へ行かされそうになったり、ハワイからパラオへ行き先も変更になったり。
マネージャーに騙されたり、当初言われている話とは全然違う状況になったり…と本当にいろいろなことがありました。
私の周囲の芸人さんもそのテレビ番組でプロポーズをしたり、サプライズで結婚式を挙げたりとありましたが、全部ガチですから。
(※)2013から2016年の木曜日0:59~1:29に放映されていた結婚式バラエティ。一般視聴者、芸能人、芸人らが参加し、サプライズプロポーズや結婚準備、さまざまな形式の結婚式の模様を、超リアルに追跡していた。
── いま考えると、凄まじい番組でしたよね…。番組内で実際にフォトウェディングを体験されてみて、いかがでしたか?
大貫さん:写真が思い出になる、ということを実感しました。
本当に、今はあの番組に出て良かったと思います。たぶん面倒くさいと思ったまま、フォトウェディングすらやらないで終わってしまっていたと思うので。
実は番組の後、和装でフォトウェディングをもう一度やろうか…なんて話していたんですけど、結局面倒くさくてやらずじまいになっているんです。あの時やっておいて良かった、と心から思いました。
人生で大事なことはすべて漫画が教えてくれた
── 大貫さんが結婚式に夢をもてなかった要因として「一生働いていく」という思いを挙げています。いつからそんな風に考えていらっしゃったんですか?
大貫さん:子どもの頃からです。お嫁さんになって家でお料理をして…というイメージが湧かなかったのが、大きな理由かもしれないです。妹や同世代の従妹はみんなお料理が好きで、仲の良い子たちは女の子らしい遊びに興味があった中にいたのに、自分はその頃、野球と相撲が大好きだったんです。親戚みんなで集まった時に、親戚のおじさんたちと「若貴の兄弟対決見た?」とか「仁志(※)のあのホームラン見た?」という話しがしたかったんです。女の子は誰もそんな話をしてくれなかったので。
(※)大貫さんは子どものころ野球が大好きだった。巨人軍と高校野球の大ファン。特に仁志敏久選手の大ファン(当時は松井、落合、元木などビックスターが揃い踏みのスタメンの中、かなり渋い選択)。学校には仁志選手の下敷きを持っていったが、そんな同級生は皆無だったとのこと。
── 野球と相撲のディープな話を小学生女子に求めるのは、かなり厳しいですね…。大貫さんは、少女漫画も大好きだったというお話をうかがっています。少女漫画から「一生働いていく」と影響を受けた部分もあるのでしょうか?
大貫さん:影響というより、すべて少女漫画から学びました。少女漫画を読んで「女性1人でも生きていくために財力が必要だな」ということを教えてもらったんです。大好きな漫画家さんたちのエッセイ漫画を読むと、漫画家さんたちはずっと働いているというイメージでしたから。漫画を描くにもデジタルではなかったので、とても大変だったと思います。
── あの頃の漫画家さんは、大体コミックの巻末やページ帯の部分に締め切り地獄に追われている近況を書いていて、本当に大変そうでした。むしろ、漫画家は大変な職業とは思わなかったのでしょうか?
大貫さん:私が「イラストを書いてお金を稼ぎたい」と思ったきっかけは、さくらももこ先生のコミックエッセイを読んだ時です。
雪が降っている時に、さくら先生がシャーっと家の中からカーテンを開けて「ああ、雪かあ…こういう時一番漫画家になって良かったって思うんだよなあ」というシーンがあって。
たぶん他の人にとっては何でもないひとコマだと思うのですが、私は雪や雨の日に、本当に小学校に行きたくなかったんですよね。
「そうか、漫画家になれば外に行かなくてもお金を稼げるんだ。これは絶対にやってみたい!」と、衝撃を受けました。自分の考え方や生き方に、ものすごくマッチした職業だなと思ったんです。
── 幼い大貫さんが衝撃を受けたシーン、さくらももこ先生の描く「ガーン」の構図で目に浮かびます。
大貫さん:それに、回りから見たら「めちゃくちゃ不幸」「かわいそう」といったシチュエーションでも、一歩引いた『神の視点・漫画的視点』で見たら、面白おかしく捉えられるということも『ちびまるこちゃん』を読んで学びましたね。
ショックな出来事や「ああ…これは最悪だ…」というシチュエーションも、自分の中で「だがしかし、これは幸運への前触れなのであった(キートン山田さん口調で)」とナレーションをつけて、暗い気持ちにならずに乗り越えることができたんです。
漫画が私を、すごく助けてくれました。
就職活動で人生を真剣に見直したら芸人になっていた
── 現在大貫さんは、小学生の頃に思い描いた働いて自立する夢も、漫画家になる夢も叶えていますが、お笑い芸人になろうとはいつから考えていたんですか?
大貫さん:自分の未来について真剣に考えたのは大学4年の就職活動を始めたときですね。まわりは就職の志望分野がはっきり決まっている友達ばかり。就職活動を頑張っている人との温度差を感じていました。自分もなんとなく興味のある分野の企業へ面接に行くものの、第一志望ではないのに「絶対に入りたい」と熱弁を振るわなければならないことに違和感を感じていました。
そんなとき、一番仲の良い友達が病気になってしまった。そこで「周囲に流されずに、自分のやりたいことをやってみたほうがいいのでは?」と思い始めたんです。
昔からお笑いも大好きで、アルバイトの友達に誘ってもらった若手芸人のライブで大きな刺激を受け「自分はエンターテイメントの業界や仕事が一番やりたいことだったのでは?」と思い立ちました。
── 就職志望を一般企業からお笑い芸人に、かなりフレキシブルに方向転換したんですね。その積極性と、大貫さんを突き動かした原動力は何だったんでしょうか。
大貫さん:小学校から大学までは、何となく「ここに入れそうだからここにしよう」と、決めることが当たり前だと考えていました。しかし就職は「一生働き続けたい」と考える自分にとって、一生同じ仕事をやり続けることになるかもしれない。そうなったら…と突き詰めて考えたら、今の道を選んでいたんです。
でもNSC(吉本総合芸能学院)には入ったものの、「ほとんどみんな卒業できずに辞めてしまう」と聞いていたので、無理ならまた別の道を考えようとは思っていましたけど。
結婚を考えるほど「結婚式は自分には向いてない」と思ってしまう
── そんな過酷な状況の中で無事NSCを卒業され、芸人活動を送っている時に、旦那様である山西さんと出会い結婚を決められました。旦那様と結婚を意識するようになった時、「結婚式どうしようかな?」など、具体的に考えたりはしましたか?
大貫さん:芸人という人たちは、自分の失敗談も浮気も何でも、すべての気持ちを包み隠さずオープンに話すんです。でも、男芸人たちから「結婚式をやりたい」という声を聞いたことはありませんでした。
男芸人が結婚式を挙げる理由は、“奥さんがやりたいから”“奥さんが喜ぶから”しか、聞いたことがなかったんです。
── 旦那様は、大貫さんが結婚式をやりたいと言ったら、やってくれそうな方とお見受けするのですが。
大貫さん:もちろん夫は、私が「結婚式がしたい」と言ったら、やろうと考えていたと思います。
でも実は私の方から、結婚式どうする?という話以前に「婚約指輪も結婚式も本当にいらないから、サプライズであげようとか計画するのは絶対に辞めてね」と言ってあったんです。
自分が好きなカジュアルな服装に指輪が似合わないので、指輪はまったくしないタイプでしたし、お金の無駄になるからと強く言い含めていました。指輪にお金を使うなら、機能性の高い家電のほうが欲しかったですね。欲しいタイプの指輪は、夫から却下されてしまいましたし…。
── 今回のお話の中で「ウェディングドレスが自分には似合わない」と思っていらっしゃるのが、とても意外でした。大貫さんは吉本べっぴん芸人で第3位(2014年度)に選ばれたりと、客観的にむしろ可愛らしい方だと思うのですが。
大貫さん:それは芸人レベルでの話です!この世界にいると、可愛い女優さんも間近でたくさん見てきているので、自分が「かわいい」とはなかなか思えなくて…。
また、例えば結婚式でドレスを着たときに、男芸人の先輩などに思い切り突っ込まれる場面を想定してしまうんです。その時、どんなテンションで返したらいいのか、と考えてしまう部分もありました。
── なるほど…芸人さんならではの悩みですね。
大貫さん:ウェディングドレスや婚約指輪だけでなく、結婚にまつわるひとつひとつの「本当の意味」を知るほど「結婚式は自分には向いていないなあ…」と思うことがありました。
例えば結婚式で定番の演出『ファーストバイト』。家で新婦が料理を作るので新郎は外で稼いできてね、というような意味合いがあることを知りました。
でも私たちの場合、このパフォーマンスをすることに違和感があったんです。我が家では、夫が芸人として稼ぎが少ない代わりに主夫として料理が非常に上手。一方私は料理が下手な代わりにイラストや漫画で稼ぐ、ということを、みんなが知っているんです。いま、共働き家庭がどんどん増えている状況で、昔の意味のものをそのまま結婚式で行うのは、現状に合っていないのではないかと考えました。
── 結婚式の儀式や演出の由来は、昔からの習わしのものがそのまま伝わっているものも多いです。意味を見直すと現代の現状に合っていないものも、たくさんありそうですね。
大貫さん:事実婚をしている友人達などに話を聞いてみると、『結婚』にまつわる意味や法律についてとても詳しいんです。自分が結婚式や入籍に対して、意味をしっかり理解していなかったことに気づきました。
『籍を入れる』の意味も、入籍は籍を新しく作ることだと区役所に行って初めて知りました。自分は山西側(夫側)に入るのかと思っていたら、本籍地もまっさらに自分たちの新しい戸籍を作ることだと知って、「そうなんだ!!」 と驚いたんです。
私たちの親より上の世代の人たちにとって、結婚とは「嫁に入る」など『嫁』のイメージが強い中で、自分たちが考える結婚の形を結婚式で表現するのは、難しいのではないかと考えていたんです。
── 大貫さんが考える『結婚式を挙げない』理由について、ひとつひとつ納得のいく話ばかりでした。でもここから、大貫さんの中で、どのように結婚式のイメージが変わっていくのか。いったい何があったのか?とても気になります。次回のお話も楽しみにしていますね!
大貫ミキエさんとは
芸人として旦那様である山西章博さんとコンビ『夫婦のじかん』として活動中。
また漫画家としては集英社ちびまる子ちゃんファンコミック大賞、ママリ漫画大賞、小学館漫画賞、たまひよ漫画賞等々数々の漫画賞を受賞。
大貫さんの活動や著書を、今すぐCHECK!
【お知らせ】大貫ミキエさん著書『母ハハハ!』発売中
付き合って10年で結婚、偶然が重なり夫婦でお笑いコンビを組むことに!
嫁でイラストレーター兼芸人の「夫婦のじかん 大貫さん」が、旦那の山西章博(元・トンファー)とのふたり暮らしの様子から、結婚やコンビ結成のエピソード、妊娠・出産・育児の中で日々巻き起こる、笑いと癒しと奮闘の数々をユーモアたっぷりに綴った抱腹絶倒のコミックエッセイ
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